ルネサンス時代は芸術や絵画の盛期
イタリア・ルネサンスについて語る時、われわれは15世紀末から16世紀初頭にかけての時期を「盛期ルネサンス」と呼んで前後から区別するのが通例である.わずか211年ほどの短い期間ではあるが,この時代は以後良長らく,古代ギリシア・ローマに並ぶ西洋芸術の完成期と見放されることになった.そのため,それ以前のいわゆる「初期ルネサンス」を完成に至る準備段階として軽視する一方で、最盛期ルネサンス美術を古代美術とともに後世の芸術家の手本として絶対視する考え方が,19世紀半ばに至るまで支配的芸術観であり続けた。今日では、こうした考え方は大幅に改められ,初期ルネサンスも盛期ルネサンスとは別個の特質や魅力を備えたものとして理解されるようになった.しかしそれにしても、盛期ルネサンスと呼ばれる時期に、傑出した芸術家か前代未聞の密度で登場したという事実は否定できないし、これらの芸術家の業績を通じて、14世紀に始まり15世紀に受け継がれた芸術動向が円熟期を迎えたことも否定し得ないのである。
実際,盛期ルネサンスは巨匠たちの時代だった。前代の芸術家たちにしても,建築においては古代の範例に倣い,絵画・彫刻においては自然く現実世界>を本当らしく写し出すことに苦心しながら,結果的には各人の芸術的個性をその作品に刻み込んでいる.しかし.盛期ルネサンスの芸術家たちは自己の天賦の才能に対するはっきりした自覚を持ち,その個性的才能によって、古代をもしのごうとする自己の芸術世界を創造しようとした.傑出した芸術家のこのような意識とそれにふさわしい業績は,人々の芸術家観をも大きく変えることになる。すなわち、15世紀には依然として手仕事を行なう職人の身分を脱しきれなかった画家,彫刻家,建築家のなかから,自他共に認める「芸術家」が台頭する。天才に導かれて凡人の到底および難い創造活動を行なうこれらの芸術家は,教皇や皇帝など聖俗の最高権力者からさえも,敬意をもって遇せられた。
盛期ルネサンスの主たる舞台は,ユリウス二世に代表される教皇のもとて活気を取り戻したローマと、東方とヨーロッパ諸国を結ぶ貿易で富を蓄積したヴェネチアである。とくにローマにおいては,教皇庁の注文で,前代よりも遥かに大規模な作品が生み出され,そのスケールの大きさにおいても圧倒的な業績として畏敬されることになった.
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