版画とフレスコ画の違いや特徴
版画
レンブラントはエッチングの大家でもあった.エッチングは銅板の表面を耐酸|生の樹脂などで覆い、これを引っ掻いて描いた図柄を酸の腐食作用で銅板に刻み込む版画技法である.銅板に直接刻むエングレーヴィングが硬く規則的な線を特徴とするのに対し、エッチングの特性は自由な描線や柔らかい明暗表現にある.また、版画はマイナーな分野とされるため、主題の選択や表現に油彩画より自由が効くという利点もある.レンブラントはこうした特性を十二分に活用し、創意溢れる多数の宗教版画、新鮮な風景版画、親密な風俗版画を制作した.これらの版画は国外にも流布し、レンブラントの芸術は、彼自身が一度も訪れなかったイタリアにおいても理解者を得ている.伝達手段としての版画の価値を徹底的に利用したのはフランドルのリュベンスで、彼は自作の油彩画を厳重な監督下に版画化させ、原作を見ることのできない遠隔地の人びとにも、自分の構想を正確に伝えようとしたのである.写真複製の発明以前には、複製版画も重要な意義を持っていた.
フレスコ
ネーデルラントで発明された油彩画は、やがて夕ブローの全盛時代をもたらすが、ルネサンス期のイタリアの聖堂装飾においては壁画が主流をなしていた.当時一般的だったのはくブオン>フレスコという技法で、壁の表層に塗られた薄い漆喰層がまだ乾かぬうちに水溶性の絵具で描くことから、英語のフレッシュに相当するこの名で呼ばれたのである.この表層の漆喰は、その日に絵を描く予定の面積<ジョルナータ>ずつ毎朝塗り足されたので、その継ぎ目を子細に観察すると、画家の作業課程や制作に要された日数が推察できる.フレスコ画は無比の堅牢さを誇ったが、描き直しが困難なため制作には熟練が要求され、またその本来的特性から色彩表現には限界があって、油彩画のような華麗な色彩や、微妙な諸調の表現は望めなかった.レオナルド・ダ・ヴィンチは例外として、この伝統的技法はミケランジェロ以後も代表的壁画技法としての地位を守りぬくが、湿気の多いヴェネツィアではまもなくキャンヴァスを壁に貼付する手法がこれにとって代ることになった.
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