更新日:

美術世界に展開している美術の潮流と美術作家の展望

美術世界に展開している美術の潮流と美術作家の展望

日本画、洋画、版画、写真。CG、工芸、陶芸、彫刻のトレンド前項では、不思議でおかしな日本の美術市場の「経済的な見取り図」を概観したわけですが、今度は、肝心の美術と美術品の大ざっぱな内容と現状を検証していきましょう。
ひとことでいえば、人間の高度な精神活動のエネルギーを集中し、一定の材料、技巧、様式などによって美的に創作されるものが「芸術」です。
芸術は、
① 詩、小説、戯曲などの言語芸術
② 音楽、歌唱などの音響芸術
③ 舞踊、演劇、映画などの表情芸術
④ 絵画、彫刻、建築などの造形芸術などに分類されます。

①から③までは時間の経過によって展開する時間芸術、④は空間に展開する空間芸術という区分けもできます。このうち、美術は普通④ の造形芸術を指し、美術品は美的なモノとして空間をシェアする具体的な存在ということになります。
ここで、われわれが、「見えない橋」を架けるべき、今日の美術世界に展開している美術の潮流と美術作家の展望の概況を押さえておこうと思います。
●日本画
まず、日本画では、明治以降、昭和期までの近代日本画の水準は高く、古くは狩野芳崖から横山大観、菱田春草、今村紫紅、小林古径、安田靭彦、速水御舟ら物故巨匠の作品はおおむね美術館等に収蔵されています。これに対して、現代日本画の水準がどの程度のものか、まず、近代日本画の巨匠の作品を美術館や展覧会でじっくり鑑賞したうえで、院(日本美術院)展系、日展系、創画会、無所属と、所属団体で分かれている現代日本画作家の作品を品定めしたらいいでしょう。
●洋画
次に、洋画では、日本画とは様子が違い、明治以降の近代洋画の系譜は、歴史的な価値以外の評価はそう高くないといわれます。現代洋画の作家もやはり、日本固有の公募団体展という組織集団によって現代美術画壇を構成しています。そのため、強力な公募団体展の古株長老は、文化勲章とか文化功労者、日本芸術院会員などという国家的栄誉の肩書をもっていますが、それはかならずしも、制作作品の優劣ではなく、政治力の有無に左右されるケースが少なくないことにも留意されたらいいでしょう。ひとりわが道を行く無所属作家や、日本の枠を飛び出して美術先進国の激烈な競争社会で傑出する在外作家に注目することも見当違いではないかもしれません。
●版画
版画には、①本版画(凸版と凹版)、②鋼版画(エッチング、ドライポイント、エングレーヴィング、アクアチントなど)、③ リトグラフ(石版画)、④ シルクスクリーン(セリグラフ)、⑤拓版画、⑥ジグレ、⑦ミックスト・メディア(混合版種)などの種類があります。本版画、銅版画は、版の摩耗などのため、比較的、刷り部数が少ないのが普通ですが、リトグラフやシルクスクリーンは相当量摺刷可能なので、ポピュラー版画は、たいてい、これらの版種を使用しています。日本では、版画家という独立したジャンルの専門家が存在しますが、
欧米では、「バントウル・グラヴール(画家にして版画家)」という言葉どおり、油彩などの画家が、創作の必然から版画を手掛けるケースが普通です。
●写真、CG (コンピュータ。グラフィックス)バブルの一時期、写真のオリジナル・プリントの価値が喧伝されましたが、ブームが去った今日、マン・レイ、アンセル・アダムス、アルフレッド・ステイーグリッツなどの著名な米国系古典写真作家は例外として、メイプル・ソープのような熱狂的なファンも多かった現代作家でも人気離散中という状況です。作家が写真制作の全プロセスを処理し、エディション(部数限定)制でプリントされたオリジナル・プリントが10~13年程度経過した「ヴィンテージ・プリント」も同様に、人気低迷中です。ただし、女性も少なくない若い作家たちが続々と生まれているので、近未来にはより興味深い分野となるはずです。CGは、世界的にも傑出した作家の輩出が少なく、これからの分野でしょう。
●工芸
工芸は漆芸、彫金、ガラスエ芸、陶芸などの諸分野に分かれますが、それぞれに風趣があり、最初は好き嫌いなしに貪欲に鑑賞して回るといいでしょう。そのうちに「見えない橋」が架かりはじめる楽しみがあるはずですが、収集の対象としては、ガラスエ芸、陶芸などが一般的です。また、ガラスと陶芸は、シロウトが「創る」道に入門しやすいのも魅力です。なお、名のとおった陶芸作家の作品は、「売る」時に底力のある美術品です。


ナビ
Page Top