更新日:

美術商の申告所得ランキング

不思議でおかしな日本の美術業界の現状と展望


『98年美術商の申告所得ランキング』というリスト(美術評論家・瀬木慎一主宰 総合美術究所主任研究員・桂木紫穂作成)が平成11年7月1日付『新美術新聞』に掲載されていました。
それによると、98年度の日本の美術業界で、4000万円以上の法人申告所得額の企業は24社で、ランキングは次のようになっています。
① アールビバン(二九億五九〇〇万円 ポピュラー版画)
②テールブリアン(四億三三〇〇万円 ポピュラー版画)
③プロバ(一億三八〇〇万円 ポピュラー版画、版画)
④水戸忠(二億二二〇〇万円 占美術系)
⑤毎日コミュニケーションズ(一億九六〇〇万円 競売、版画、ポピュラー版画も)
⑥オリエンタルバザー(一億八〇〇〇万円 骨董、民芸、外人向けスーベニール)
⑦グランプリアート(一億七五〇〇万円 ポピュラー版画、版両)
⑧伊藤忠ギャラリー(一億六四〇〇万円 日本の版画、その他)
⑨壺中居(一億三二〇〇万円 古美術系)
⑩毎日アート出版(一億一二〇〇万円 版画、ポピュラー版画、通信販売)
⑪ギャルリー・ドゥ(一億六〇〇万円 洋服部門、美術部門)
⑫瀬津雅陶堂(一億五〇〇万円 古美術系)
⑬赤坂水戸幸(九八〇〇万円 古美術系)
⑭アートコレクションハウス(九五〇〇万円 ポピュラー版画)
⑮ アジア民芸(九〇〇〇万円)
ランキング表のカッコ内で、金額の次に掲げた表示は、その美術業者が扱う主な美術品の種類です。「ポピュラー版画」というのは、造語で作家の創作意欲主体の純粋のアート作品というよりは、大衆的なアピールを狙う版元の意向が多分に織り込まれ、比較的大量かつ計画的に複数制作される、いわゆる発注芸術の範疇に入る大衆的な版画のことです。また、ポピュラー版画のほかに、単に「版画」という表示のある版元・ディーラーは、ポピュラー版画のカテゴリーを外れた版画作品も販している業者と、認識しているものです。
これを見ると、ランキング上位3位までのほか、24社中7社までがポピュラー版画主体の業容であることに驚かされます。
また、申告所得ではなく、総売上高の面から見ると、美術業界としては唯一の株式の店頭公開企業であるトップのアールビバンが一四二億二一〇〇万円、毎日コミュニケーションズが(美術品売買以外の事業所得も含めて)一七四億五九〇〇万円、アートコレクションハウスが一一二億五九〇〇万円となっていて、売上が年間一〇〇億円以上の活発な美術品取引をしているのは、主としてポピュラー版画を取り扱っている版元やディーラーたちだということも分かるのです。

ナビ
Page Top